研究内容

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研究内容1

人類史上初めて脊索が集合することを分子レベルで証明したのは、黒田裕樹の仕事です (^ ^)v
『脊索細胞の集合に関わる分子Axial protocadherin』

(序章)
 脊椎動物亜門には哺乳綱(我々ヒトなど)、鳥綱、両生綱、爬虫綱、魚綱、そして無顎綱などが含まれている。これらにホヤやナメクジウオなどもあわせた生物は脊索動物門として分類されている。そもそも脊索とは何なのであろうか?
 卵を観察している中で、最初に見られる運動は卵割と言えよう。これは細胞分裂現象が原動力となるものである。次に原腸形成運動が生じる。背側や腹側などの運命が定められた細胞群が、正しい配置に移動するために行われる運動である。しかし、全体の構造は、依然として卵の時と対して変わらない。仮にちょっと目が悪ければ、依然として球体のままでいるだけとも言えよう。しかし、次に生じる運動は、卵全体の形に大きな変化をもたらすものである。それが脊索の形成だ。脊索は、将来の背中になる辺りに細い一筋の針金のごとく現れる。その後、脊索は前後に伸長していき、それにつれて卵は細長くなっていくのだ。我々は定期的に身長というものを測定するが、脊索なくして身長も何もあったものではない。さらに脊椎動物では、脊索は発生のある時点において消失し、脊索の存在していたスペースに神経管由来の脊髄と、体節由来の脊椎骨が合体し、脊椎ができあがる。つまり脊索なくして脊椎動物無しと言っても過言ではなかろう。脊椎動物を脊椎動物たらしめる原動力、それこそが脊索なのである。

(黒田の発見〜予定脊索細胞は確かに強い集合能力をもつ)
 背側内胚葉領域において、脊索が集合することを誰も示した人はいない。そこで、私はまず予定脊索細胞が、周りの細胞群とは違う集合能力を有していることを示すことができないか、試験管内モデル系を作成することにした。もちろん、様々な細胞と接触している胚内の背側中胚葉領域から将来の脊索細胞だけを切り出すことなどは不可能である。そこで、予定表皮領域の細胞(アニマルキャップ細胞)から、中胚葉誘導物質であるアクチビン蛋白質を用いて、試験管内で脊索に分化させる系の確立に成功した。そして、他の発生運命を帯びた細胞群と共に予定脊索細胞を混ぜ合わせて、予定脊索細胞が非常に強い集合能力を有して集まることを証明した。これは、私の修士課程時代の研究成果である(論文のPDF)。

(黒田の発見〜Axial protocadherinが脊索を集合させる)
 それでは、脊索を集合させる分子は何なのであろうか?予定脊索細胞がカルシウムの不在時にバラバラになること、そして、細胞同士が強い接着性を有することから、私はカドヘリンファミリーに属する分子がその役割を担っていることを考え、カドヘリンファミリーに従ったスクリーニングを行った。その結果、脊索特異的に発現する分子Axial protocadherin (AXPC)を得ることができた。このprotocadherinは一般的なcadherinファミリーと違い、1) 細胞外の繰り返しドメインが6つあり(一般的には5つ)、また細胞内にbeta-cateninの結合領域を有していなかった。gain-of-functionalな機能解析を行った結果、AXPCを発現させた外胚葉細胞は、脊索と同様の挙動を示し、強い集合能力を有することが分かった。また、loss-of-functionalな機能解析を行った結果、AXPCが働くことの出来ない脊索は、集合能力を欠失することが分かった。AXPCが働かなくなった胚では脊索領域がポッカリと無くなり、脊索細胞の分散によって生じた異所的な神経構造の存在が確認された。以上の結果より、脊索を組織として脊索たらしめていたものはAXPCであったことがわかる。このAXPCの存在なくしては脊椎動物は、その形に至るスタートを切ることも許されない訳である。  AXPCはヒトにおいても発見され、protocadherin-1という名称でも呼ばれている。また、腎臓において発現するなど、脊索以外での活躍も認められる。脊椎動物が、非常に強い細胞集合能を必要とした際にAXPCが使用され、その一番最初の使用用途が脊索の集合ということなのかもしれない(論文のPDF)。


研究内容2

『BCNEセンターについての研究』

(序章)
 1924年、ドイツの科学者であるハンス・シュペーマン教授とヒルデ・マンゴールド研究員は、両生類胚の原口上唇部領域に非常に強い誘導能を持つ領域が存在することを発見した。右図は、その領域を二つもつ胚を黒田がアフリカツメガエルを用いて作成したものであるが、頭部から尾部構造までが完全に保存された二次軸胚が原口上唇部によって誘導されている(このような技術を胚操作と呼ぶ:黒田は世界でもトップ10に入る胚操作技術を持つと自負している)。この偉大な発見によりシュペーマンは1935年にノーベル医学生理学賞を受賞し、また、この偉大な領域はシュペーマン・オーガナイザーと呼ばれるようになった。
 この発見は、生物学の世界に非常に大きな影響をもたらし、発生生物学者の殆どが中胚葉であるシュペーマンオーガナイザーを中心として全ての組織が誘導されていくと考えるようになった。シュペーマン・オーガナイザーを発生の総司令官として捉える考え方だ。
 しかし、20世紀末になり、シュペーマン・オーガナイザーが形成される時期に発現する遺伝子群の詳細な分子情報が明らかになるにつれ、神経(特に脳などの前方神経に関して)はこの考え方に当てはまらない結果が出始めた。なぜなら、中胚葉が全くできない条件下(つまりシュペーマン・オーガナイザーが存在できない条件下)において、依然として前方の神経が誘導されることが両生類や魚類を用いた実験において確認されたからである。つまり、総司令官がいなくても脳組織が作られるという訳だ。また、外胚葉領域に発現するBMP (Bone Morphogenetic Protein)と呼ばれる分泌タンパク質の活性が阻害されることによって、外胚葉領域は中胚葉とは無関係に神経化することも発見された。21世紀になり、シュペーマン・オーガナイザー絶対論は崩れ始めたわけである。
 ちなみに、発生学者の大御所の先生の中には「シュペーマン・オーガナイザーの発見が発生学を四半世紀遅らせた」とおっしゃる方もいます。私はそこまで極端な意見は有していませんが、盲目的なまでのシュペーマン・オーガナイザー信奉がいくつかの真実にフィルターをかけてしまったことは間違いないと思います。

(私のこれまでの研究)
 なぜ、中胚葉が存在しないにも関わらず神経が誘導されるのであろうか。その理由は、外胚葉領域において神経を誘導できる物質が発現しているからに違いないと考えるのが、最も素直な論理であろう。
 私はまず、上に述べた中胚葉が存在しない胚を人工的に作成した時に、胞胚期において背側動物極側の領域(右に示す模式図の緑色部分)にBMPの働きを阻害するタンパク質(BMPアンタゴニストとも呼べる)であるChordinとNogginが発現していることに気づいた。しかし、だからといって、それが実際に神経を誘導する原因となっているとは限らない。そこで、中胚葉不在の胚において神経が形成される領域がその領域に由来するかどうかを確かめた。その結果、神経に分化した領域は100%その領域に由来していることを突き止めた。また、BMPアンタゴニストを中胚葉非存在下の胚において働かないようにすることによって、神経形成が阻害されることも発見した。これらの理由より、原腸胚のシュペーマン・オーガナイザーの出現よりも前にあたる胞胚期において発現するChordinとNogginの存在が、中胚葉非存在下の胚における神経誘導に関わっていることが証明された訳である。それ故、この特殊な領域を、胞胚期(blastula)においてChordinとNogginが発現する領域として、BCNEセンター(Blastula Chordin- and Noggin-Expressing center)と名づけた。
 では、シュペーマン・オーガナイザーが存在する胚(正常胚)において、BCNEセンターは脳領域に分化しているのであろうか。この疑問に答えるために、私はBCNEセンターの詳細な運命追跡実験を行った。その結果、正常胚においても脳の殆どの領域がBCNEセンターに依存していることが判明した(右図のオタマジャクシの緑色領域がBCNEセンターに由来している)。つまり、両生類胚はシュペーマン・オーガナイザーが出現する前から、脳ができる領域を予め準備していたことになる。この発見は、発生生物学の中で謎とされていたシュペーマンオーガナイザーと接していない外胚葉領域において起こる神経誘導(側方神経誘導現象)に関しても、明確な答えを与えることになった。
 この研究内容は、世界最高峰の科学雑誌であるNature誌からも高く評価され、神経発生の企画において、マイルストーンにあたる論文として紹介される栄誉を得た。

(現在のBCNEセンターに関する研究)
 BCNEセンターの役割に関する研究はこれで終わったわけではない。私達のグループは、BCNEセンターの半分近くの領域は脳以外の組織に分化することを確かめているからだ。実は、非常に面白いことに、シュペーマン・オーガナイザー領域は全てBCNEセンターに由来していることが判明している。つまり、原腸胚のシュペーマン・オーガナイザーは元々はBCNEセンターであったのだ。そう、BCNEセンターであったことが、将来、シュペーマン・オーガナイザーになるための非常に重要な条件であると考えたとして何の不思議があろうか。私達は現在、BCNEセンターの存在が、シュペーマン・オーガナイザーの形成において、どのような存在であるのかを検証する実験に取り組んでいる。この研究を進めることは、試験管内において効果的にシュペーマン・オーガナイザーを創り出すことにつながり、いずれは表皮領域だけで胚の全体構造を誘導させ、泳ぐオタマジャクシの創出につながるのではないか、と期待している。
 それは、ある意味、フランケンシュタインの創造に近い実験と言えよう。このような実験は哺乳類を用いて行うには、非常に倫理的に反感を買う内容である。いや、それ依然に哺乳類胚を用いて細やかな胚操作を行った胚を十分な例数を得ることに無理がある。アフリカツメガエルを用いた本研究の推進こそが、最も進むべき道であると言えるだろう。
 

その他の研究

『老化制御因子が胚発生に与える影響について』
TORシグナルやSirtuinシグナルは老化に関わるシグナルとして報告されています。しかし、生命の時間軸は受精したところから始まっており、その時から老化へのカウントダウンは始まっています。我々はTORシグナルやSirtuinシグナルの初期発生での在り方、ならびに時間軸に関わると思われる分子シグナルがどのように初期発生において貢献しているのかについて研究を進めています。

『分泌型小分子が発生に与える影響の解析』
他の細胞に働きかけて新たな分化等を誘導することができるのは「分泌物質」である。初期発生において、数多くの分泌物質が報告されていますが、その殆どはアミノ酸数が100を大きく超えるペプチド系の物質です。本研究室では、アミノ酸数が100を下回るような小分子ペプチドや非ペプチド系分子についても目を向けており、それらが初期発生においてどのような役割を有するのかについて研究を進めています。

『シグナル配列を活用した新しい細胞生物学的手法の開発』
シグナルペプチドはタンパク質の行き先を決定するためにアミノ酸配列の中に内蔵された真核生物共通の仕組みである。我々は二量体にシグナルペプチドを組み合わせることによって、新たなドミナントネガティブ手法として用いることができるのではないかと考えており、それを実現する研究を進めています。

『新しい遺伝子ノックアウト・ノックダウン手法の脊椎動物胚での応用』
脊椎動物において特定の遺伝子をノックアウトする方法として長い間ES細胞への相同組換えを用いた手法が用いられてきましたが、これには多大なる時間と労力を必要とする問題点がありました。近年、CRISPR/Casを代表としたいくつかの新たなノックアウト手法が確立され、遺伝子ノックアウトの新時代に突入しようとしています。またこのノックアウト法を応用することによってノックダウンも可能になる場合もあります。我々は、それらの脊椎動物の初期発生の解析への応用をもくろみ、研究を進めています。

『BMPアンタゴニストに共通したタンパク質ドメインをもつ新規の分子の役割について』
シグナルを入れるタンパク質(アゴニスト)と、それに結合して働きを阻害するタンパク質(アンタゴニスト)の関係は、様々な生命現象を理解する上で、非常に重要なものである。初期発生では、BMPなどのアゴニストに結合するアンタゴニストが数多く報告されている。アンタゴニストには結合のための特異的なドメインの存在が報告されており、本研究室では、そのドメインを持つタンパク質として同様のものを他にもいくつかリストアップしている。それらの初期発生における働きを研究している。

『FGFシグナルが時間軸に沿って及ぼす影響の違いの解析』
生物の体の中で、時間や場所によって、同じシグナルによって現れるアウトプットが異なってくることは当然のことであるが、そのアウトプットが異なる現象が急速に行われるのが初期発生の過程である。例えば、Wntシグナルによって、胞胚期までは背側化を引き起こしていたものが、原腸胚には突然その働きを無くし、後方化シグナルにかわる。同じ事がFGFシグナルではさらに急速に起きるのではないかと考えられる。そのモデルを確立するために、FGFシグナルのアウトプットの正確な測定をする研究に取り組んでいる。



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